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2011年11月28日 (月)

lost in a dream

11/25(金)。

芸術を志す初期衝動は、”憧れ”だった。

ピアノを弾く妹を見て、僕も弾きたいと言い始めたような記憶がある。
そのうち憧れはギターを弾く従兄弟になって、気がついたらドラムになっていた。


ロックだけでは表現に限界があると思ったときには、もう僕は20代の後半。

音大に入ったとき、まだ10代の子たちがびっくりするほどうまく楽器を使っているのを目の当たりにして、自分はこれまでだと、そう思った。
絶望感と劣等感がこの上もなく苦しく、見栄や世間体を省みずにこの道を選んだことを後悔した。


楽器の歴は浅い。
身体能力は高くはなく、むしろ最低のレベルだと、僕は僕自身に評価を下した。

それは屈辱だったのかもしれない。


毎日の悩みのなかで、それでもなんとか音楽を作り出したい、自分の技を身につけたいと思いながら必死に音楽を聴いていたあるときに、ふと気がついた。


ビルエバンスのトリオなんて、ジャズを聴く人に限らず、多くのリスナーが当然のごとく一度は耳にしたことのある音楽だろう。
当たり前のようにそれはジャズであって、その”当たり前”という思い込みによって、僕の耳は聴くべきところにフィルターをかけていた。

それがある時、一瞬のことだったと思うけれども、そのドラマーの音があまりにも衝撃的に耳に飛び込んできた。

”普通”とは一体何だったのか。
常識とは一体どれをさして言うものなのか。

ごく自然にそのフィルターは剥がれて、自分のスタイルに真剣に向き合える可能性を僕は手にした。

ビルエバンスの重要な時期を支えたドラマー、ポール・モチアン。

僕には彼の作り出す打楽器の空間が”あるはずの場所にあるものがなく、思わぬところにないはずのものがある”ように見えた。

唯一無二のバランス感覚と、あまりに少ない、あやういほどの音数。
個性的なダイナミクスの作り方。

何度も何度も聴いてきたはずだったのに、まさにその瞬間まで僕は彼の音が”聴こえていなかった”ことに気付く。

強く、速く、難解、複雑。
そこには憧れを抱かせるだけのものすごい力がある。
それができなければ使い物にならないという、言わば迷信のようなもの、あるいは呪い、あるいは重力。


モチアンの表現はそのすべてから解放されたところにあると、僕にはそう思えた。


彼のたくさんのソロを採譜した。
重力から解き放たれたくて、一心に奏法を研究して、とにかく一日中でも同じ演奏を何回も聴いた。


シンバルの一打から、音楽全体が、森の中か海の中のように、全てが繋がっているように聴こえ出した。

音楽の真実は、憧れの向こう側。
体という制約を超え、心に響くところにある。


今、また悩みの中にある僕は、彼の音に深く沈んでいた。
その矢先、、、。


11/22、ポール・モチアンは80歳で息を引き取った。
彼に会うことは叶わなかった。

いつかニューヨークに行けるときがきたら、きっと彼にありがとうと伝えようと。

エルヴィン・ジョーンズはずっと前に”辛いことがあっても続けるんだよ”と僕の手を握りながら言ってくれた。
熱い熱いエネルギーのようなもの。


ポールは僕に、”音楽とは何か”を常に示してくれた。
苦悩を解決する糸口になるのはいつも彼の音楽。
それは、まぎれもなく”己の表現をすること”。

演奏だけではなく、新しい曲を作り、古い曲を蘇らせ、”今”を表現する。


彼は音楽を通して、生きることの面白さを教えてくれた。
自分のバランスで立って歩いていけ、と、その音が語っている。


ありがと、ポール。
また、いつか。

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